いま話題のトレンドワードをご紹介する本企画。第19回のテーマはスッキリわかる「ワークシェアリング」です。言葉の意味、そしてその背景や関連する出来事を解説していきます。みなさまのご理解の一助となれば幸いです。
「ワークシェアリング」とは、文字通り「Work」(仕事)を「Share」(共有)する意味で「一定の労働量を多くの労働者の間で分かち合う」ことをさします。この考え方は1970~80年代のヨーロッパ圏で生まれ、海外では1980年代から現在に至るまで活用されています。世界的に注目された理由は「失業率の高さ」や「過酷な労働による心身の健康被害」によるとされます。日本でも2001年頃から厚生労働省などで検討され、2002年12月に「多様な働き方とワークシェアリングに関する政労使合意」が得られ、2008年のリーマン・ショックでも関心が高まったものの、定着には至りませんでした。しかし、2018年頃からの働き方改革の本格化や2020年のコロナ禍以降、「雇用の維持と多様な働き方への対応」「労働力不足の解消と少子高齢化対策」「心身の健康維持と生産性の向上」などを背景に改めて注目を集めています。
ワークシェアリングの4つのタイプ
(1)雇用維持型(緊急対応型)
一時的な景況の悪化などで人員整理が必要となる事態を乗り越えることを目的とする。解雇ではなく、緊急措置として従業員1人あたりの所定内労働時間を短縮し、社内でより多くの雇用を維持する。一次的対応のため情勢回復とともに通常勤務に戻すことで優秀な人材を確保でき、人材流出などのリスクを抑えられる。
(2)雇用維持型(中高年対策型)
中高年の雇用確保のため1人あたりの所定内労働時間を短縮し、社内でより多くの雇用を維持する。これにより知識と経験の豊富な人材を活用できるため、採用コストの削減のみならず、ノウハウの伝承、後進の指導などにも寄与できる。
(3)雇用創出型
求職者への新たな就業機会提供などを目的に、国または企業単位で労働時間を短縮し、より多くの労働者に雇用機会を与え、雇用創出に寄与する。その他、休職者の業務を複数の従業員で分担し、休職者の雇用を維持しつつ新たな雇用を創出できる。
(4)多様就業型
正社員に短時間勤務を導入するなど勤務の多様化、女性や高齢者などより多くの労働者に雇用機会を与える。時短勤務、パートタイム、テレワーク、フレックスタイムなど働き方の選択肢を増やして、多くの人に勤労機会を与える。これにより、多様なニーズに対応したさまざまな働き方が実現できる。人材確保、雇用創出、離職防止だけでなく、企業のD&I(ダイバーシティ&インクルージョン、多様な人材の受け入れなど)推進にもつながる。
(1)は一時的な景気や社会情勢の悪化への対応として、(2)は少子高齢化社会における高齢者の活躍や雇用確保への対応として(参考:厚生労働省「高年齢者雇用安定法の改正~70歳までの就業機会確保~」、(3)は失業者や求職者の増加への対応として有効と思われます。そして、コロナ禍も終息の兆しを見せる現在、将来に向けて日本が注力していくのは(4)のテーマであると考えられます。
特筆すべきは、SDGsの目標の8つ目の「働きがいも経済成長も」の「すべての人々のための包摂的かつ持続可能な経済成長、雇用およびディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)を推進する」につながる点です。「働きがいも経済成長も」には、「持続可能な経済成長を遂げるためには、経済を刺激し、かつ、環境に害を及ぼさない質の高い仕事に人々が就ける条件を整備することが必要になります。雇用機会とディーセントな雇用環境は、現役世代の人々すべてにとって重要です」と示されているためです(関連テーマは、「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)」「育児・介護休暇制度」「少子高齢化」「脱炭素」も参考に)。
これら4つの型を頭に入れ、自社に合ったワークシェアリングの導入を考えていきましょう。
企業に与えるインパクトは?
ワークシェアリングには、どんなメリットとデメリットがあるのでしょうか。「企業側」と「労働者側」それぞれの立場に分けて考えてみましょう。
ワークシェアリングのメリット
【企業側】
・1人当たりの労働時間と業務負担が軽減される
・重要な業務に集中でき、生産性が向上する
・業務を多人数でシェアするため、「業務の属人化」が防げる
・労働環境が改善し、有能な人材の定着、多様な人材確保につながる
・人材の定着率が高まり、人事や採用面でコストが削減される
・「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)」が実現しやすくなる
・ワークシェアリングによるSDGsへの取り組みにより、企業イメージが向上
・体力的に長時間労働が難しくなった定年退職者の再就職など中高年の人材も確保できる
【従業員側】
・一人ひとりの業務負担が軽減され、心身ともにストレスが軽減される
・自身の雇用が維持され、リストラなどの心配が減る
・働きやすさが増す、気持ちに余裕ができる、プライベートの時間が増える、家族と過ごす時間や趣味の時間を増やせる、育児や家事との両立がかなう、などで、心身の健康を保ちやすくモチベーションが向上する
・自己啓発やスキリング、リスキリングの時間確保にもつながり、能力が向上する
・自身の人生設計に合わせた多様性のある働き方が可能になる
ワークシェアリングのデメリット
【企業側】
・業務の整理や見直し、マニュアル化など、導入までに時間がかかる
・従業員の人数が増える分、引き継ぎ業務、研修、交代・打ち合わせ時間などのロスが増え、生産性の低下が起きやすい
・多様な雇用形態で働く労働者が増え、給与や手当、厚生費、保険、給与計算などでコスト増加
・1つの業務を複数の人が担当するため、責任の所在があいまいになりやすく、ミスが起きやすくなる
・業務内容や流れが明確でないと手間が増えるリスクがある
・従業員間の人間関係などのトラブルが生じやすく、企業の負担が増加する
【従業員側】
・働く量が減少することで、給与が減少する
・仕事量が減るため、経験できるスキルが減少する
・業務を皆でシェアするため、専門性がなくなる
・ワークシェアリングができる/できない職種間で格差が生まれる
・複数の従業員で業務を分担するため、業務連携や情報共有の必要性が生じ、一部の従業員の負担増加や生産性低下を招く場合がある
メリットとデメリットをよく知り、自社の業務に上手に取り入れることが活用のコツです。ワークシェアリングの導入ステップは、「①現状の業務や人材を把握する」→「②不要・無駄な業務を見直す」→「③ワークシェアリングが可能な業務や職種を選出」→「④ワークシェアリングに向けてのマニュアルなどの作成を行う」→「⑤導入後の状況確認と評価、課題の抽出を行う」→「⑥課題の解決や改善を行い、今後に役立てていく」という手順で行うとよい、とされています。
これから予測される課題は?
ワークシェアリングは「一人ではできない業務」や「誰が担当しても同じ成果になる業務」が適しているとされています。まずは現状の業務内容を正確に把握し、ワークシェアリングが可能な業務を選定することが重要です。
ワークシェアリングでは多くの人が業務に携わるため、ささいなことでも行き違いやトラブルが起こる可能性があります。混乱防止のためにも、業務内容やフロー、守るべきルールなどをマニュアルなどで明確化しておくのが大切です。具体的なポイントは、厚生労働省「ワークシェアリング導入促進に関する秘訣集」「多様就業型ワークシェアリング 制度導入マニュアル~短時間正社員編~」などを参考にするとよいでしょう。導入後は、定期的に状況を確認し、修正を行うことが重要な視点です。ワークシェアリングはデメリットもあり、総合してプラスになっているか、目標を達成しているかどうかなど、定期的に評価を行い、期待する効果が得られない場合は、課題点を見つけ、速やかに解決を行うのがよいでしょう。
ワークシェアリングの導入に際しては、補助金制度も活用できます。例えば、「働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)」や「雇用調整助成金」「人材開発支援助成金」などがあり、ワークシェアリングに関する補助金・助成金の情報は「施策の推進に活用できる各種助成制度」「事業主の方のための雇用関係助成金」に詳しく掲載されているので参考にするとよいでしょう。
また、ワークシェアリングについての相談は、厚生労働省の「総合労働相談コーナー」が頼りになります。労働者、事業主どちらからの相談も対象としています。テレワークの導入に関しては、厚生労働省・総務省の「テレワーク相談センター」も相談を受け付けています。ワークシェアリングを取り入れることで、雇用の維持と多様な働き方への対応、労働力不足の解消と少子高齢化対策、従業員の心身の健康維持と生産性の向上をめざし、明るい未来へ一歩を踏み出していきましょう。
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