介護人材の不足が深刻化する中、従業員の負荷軽減や生産性向上につなげるべく、RPA(Robotic Process Automation)を活用する事業者が増えている。RPAはコピー&ペーストやデータの転記など、繰り返される定型業務の効率化に適している。介護の現場では利用者の日々の様子を記録することに加え、介護日報の登録や介護保険請求など多くの定型業務が発生する。これらの業務をデジタル化し、RPAを導入することで正確かつスピーディーに処理することが可能となるだろう。では、実際の現場ではどのようにRPAが活用されているのか、いくつかの事例を紹介する。
デジタル活用が進む介護現場ではヘルパーの負担を軽減する工夫を
RPA導入においてまず確認すべきなのは、介護の現場でタブレットやスマートフォンを使った記録がなされているかどうかだ。日々の記録が電子化されていれば、RPAでそれらのデータを取り込み、指定した作業を実行することができる。紙文書については、RPAにデータを取り込むためにOCR(光学的文字認識)で文字を読み取ってデータ化する作業が発生するケースが多い。
老人ホームやデイサービスを展開するA社の場合、食事の量や排便回数といった介護記録の入力・管理にはクラウドソフトを利用している。クラウド上には数多くの介護記録を入力できるものの、詳細な記録を残そうとするために入力項目数が多く、入力完了までに時間がかかっていた。データ入力は現場のヘルパーにとって大きな負担となり、介護業務に集中できない状況が生じていた。そこでRPAを使い、各入力項目に初期値をテンプレート化して入力しておくようにした。変更が必要な項目のみヘルパーが入力するようにしたことで、現場の負担が軽減され、最小限の作業で介護記録が残せるようになった。
日々の記録をデジタル化することで、業務全体の自動化にもつながる
バックオフィス業務の自動化にもRPAの導入が有効…
介護事業においてはケアプランやレセプト(診療報酬明細書)などさまざまな書類作成も必要となる。この他にも受付や電話対応、利用者に発行する請求書作成といったバックオフィス業務もある。これらにRPAを活用できれば、職員の負担は大きく軽減するだろう。
訪問介護、訪問看護、障害者支援を手がけるB社では、介護保険請求にかかる作業をデジタル化することで生産性向上を実現した。
従来、B社はヘルパーが訪問先で記入した行動記録を持ち帰り、ケアマネジャーがシステムに手入力していた。そのためケアマネジャーに多大な負担がかかり、請求ミスも発生して保険料が受け取れなかった例もあった。そこで業務フローを見直し、デジタル化を進めることを決断した。
業務フローを見直す上でネックになったのは、手書きの行動記録をどのようにシステムに取り込むかだった。そこで導入したのが、手書き文字をより高い精度で認識できるAI OCRと、データの定型的な処理を行うRPAだ。具体的な流れは、ヘルパーが持ち帰ってきた行動記録をAI OCRによって読み込み、CSVデータに変換。それをRPAによって基幹システムに転記し、そのデータを従業員が目視で確認する。介護保険請求業務全体をできる限り自動化することで、ヒューマンエラーの防止とケアマネジャーの負担軽減を実現した。業務フローが可視化されたことで、作業の属人化も解消できたという。
また、訪問介護やデイサービス、有料老人ホームの運営を手がけるC社では、訪問介護日報の処理や利用料の入金消込、集金管理業務の省力化をRPAによって実現した。これまでは各事業所が集計してPDF化して送ってきたものから、勤務日数、訪問手当などのデータをExcelで計算し、その結果を給与システムに手入力していた。伝票作成時にはFAXで届く入金データをExcelに転記し、消込をしてから会計システムに入力する形を採っていた。しかし、各工程で手入力や転記があるため、多くの時間を要するだけでなくヒューマンエラーも発生しやすい状態にあった。
そこでRPAを活用してデータの抽出とシステムへの入力の自動化を図った。各拠点の日報はCSVデータで受け取り、RPAで勤務時間などを集計して給与システムに自動で入力。入金データもExcelシートで受け取りつつ、収金管理表に自動転記してから会計システムに引き渡すことで、伝票作成まで自動化したのである。これまでは介護日報の処理、入金消込・集金管理のそれぞれで月に40時間かかっていたが、業務を可能な限り自動化したことで大幅に効率化できたという。
バックオフィス業務の効率化や省力化はどの介護事業者にとっても大きな課題だ。RPAやAI OCRというデジタルツールを賢く活用することで、手入力の発生などで現場の負担となっていた多くの業務が自動化できるケースも多い。こうした事例を参考に、ぜひ業務の自動化に取り組んでみることをお勧めしたい。
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