経理業務は、お金に関わるだけにいつの時代でも気を遣う仕事である。その上、最近ではインボイス制度や改正電子帳簿保存法への対応が求められるように、新しい法令順守のための気遣いや作業が増えている。経理業務の複雑性は高まる一方なのに、人件費の高騰や人手不足の影響を受けて人員の増加はままならない。
経理業務の複雑化で社員の負担が増加中
そうなると、必然的に既存の経理職員の1人あたりの仕事が増えることになる。ミスが許されないことは経理の基本であり、新しい業務が増えても変わらない。精神的なプレッシャーは変わらず、業務の種類や量が増えるのだから、大きな負担増加になる。一方で働き方改革の推進や残業の抑制など、世の中の動きへの追従も必要で、繁忙期を人海戦術で乗り切るスタイルも採りにくい。
「会計事務所白書2023 デジタル化に関する意識調査(企業・事業主編)」(ミロク情報サービス調べ)では、今後デジタル化(AI)で効率化できる業務について尋ねている。その結果は「経理処理」が49%で最も多かった。「データ分析」「給与・勤怠管理」を押さえて堂々のトップに上がっている。経理業務をデジタル化して効率化したいという思いは、多くの経営者やバックオフィス担当者に共通するものなのだ。
経理業務の自動化で負担軽減や業務効率化を実現…
経理業務には定型業務が少なくない。自動化することで人手を介さずに業務が進めば、経理職員の負担が減るだけでなくより創造性の高い業務にシフトすることも可能だ。それでは、経理業務のうちどのような処理が自動化でき、効果が得られるのだろうか。
自動化に適した業務は、繰り返し行われ、プロセスが明確になっている定型業務であり、経理業務の中でも定型的に行われる業務では導入効果が見込める。一方で、人間が高度な判断を必要とする業務や、パターンに落とし込めない業務は自動化に向かない。経理業務で自動化による効率化が期待できる定型業務の代表は、「経費精算」「仕訳」「入金消込」などだ。
従来型の経費精算は、従業員が起票した伝票を経理部門に提出し、経理職員がチェックしてExcelのシートや経費精算システムに手入力し、処理や決済に進むことが多かった。人手がかかるだけでなく、チェックや入力のミスも発生しやすい。こうした経費精算に最近では主流になったクラウド型のシステムを導入すると、従業員の電子マネー情報や交通系ICカード情報などと連携して伝票の記入やシステムへの入力をなくすことができる。経理職員のチェックの負担も減る上に、従業員の経費精算のための作業や時間も効率化でき、一石二鳥の効果が得られる。
経理業務では、取引を仕訳帳に記載する仕訳業務も重要なもの。貸借対照表や損益計算書を作成するための基本データになる。この仕訳入力業務も、経費精算システムと会計システムを連携させれば自動化が可能だ。また、取引先からの入金を請求書などと照合して確認する「入金消込」の業務も、地道で煩雑な作業が多く発生する。入金消込システムやツールを使うことで、処理が自動化できる。これらのほかにも、電子請求書発行システムを導入すれば、インボイス制度や改正電子帳簿保存法にも対応した請求書発行業務が省力化できるなど、経理業務と自動化の相性は高い。
経理業務の自動化で得られるメリットは多方面に
経理業務の自動化により、多方面でメリットが期待できる。その1つが、ミスの軽減だ。人間が介在する作業では、ミスが発生する可能性がある。一方で経理業務はミスの波及効果が大きい。特に取引先と関係する経理ミスが頻発するようだと、企業としての信用問題にもつながってしまう。経理職員の負担を減らし、経理業務のトータルとしてミスを削減するためには自動化が不可欠になってくる。
自動化による業務の効率化への期待も大きい。システムの導入や、パソコン上の操作を自動化できるRPAの活用により、人間よりも高速な業務処理が可能になる。その上、システムやRPAは24時間休みなく働いても効率が低下したりミスが増えたりすることがない。定型業務をこれらに任せることで、人間は高度な判断が必要な処理やイレギュラーな事象への対応、部署間の交渉などに力を振り分けられる。効率化が進むことで、残業の抑制など働き方改革につながる効果も期待できる。
こうして自動化が進むと、経理情報のデータ化、デジタル化が実現する。人手よりも早くデータを収集、確認できるようになれば、迅速な経営状況の把握や判断につながる。データ化、デジタル化を進めることで、データ分析や各種指標の可視化が容易になる効果もある。経理業務の自動化は、経理部門の業務効率化の推進にとどまらず、企業のデジタル変革(DX)の第一歩になる可能性もある。