デジタル化に向けた次の一手(第11回)いま確認しよう。「フリーランス新法」理解のコツ

業務課題 人手不足対策 経営全般

公開日:2024.04.03

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 みなさんの周りにもフリーランスとして働いている知人がいたり、ご自身の会社がフリーランスと契約していたりするようなケースは少なくないだろう。働き方の多様化が進み、企業に雇用される形だけでなく、フリーランスとして仕事を請け負うケースが増えているためだ。

 近年では特に、デジタル化やICT化の進展により、「ギグワーカー」や「クラウドワーカー」といった働き方が広がってきた。一方、フリーランスは仕事が不安定であり、業務上のトラブルに巻き込まれがちというイメージもある。こうしたフリーランスが、安心して働ける環境を整備するために、新しい法律ができた。フリーランスを守る法律として、「フリーランス新法」といった名前を聞いたことがあるかもしれないが、正確には「フリーランス・事業者間取引適正化等法」と呼ぶ法律で、2023年5月12日に交付され、2024年秋ごろまでに施行が予定されている。

フリーランスのうち、取引先とのトラブルを経験した割合は約4割程度

 この法律は、フリーランスと企業などの発注事業者の間の取引を適正化し、その就業環境を整備することが目的となっている。組織である企業などの発注事業者に対し、業務委託を受ける個人のフリーランスはどうしても立場が弱くなりがちだ。交渉力、情報収集力の違いもあり、今後の仕事への影響などを考えると取り扱いに不満があっても声を上げにくいという側面もあるからだ。例えば、フリーランスは事業規模が小さいことから、特定の発注事業者に依存しがちになり、契約内容や納品物について交渉しにくい不利な立場に置かれるケースもある。

 また、報酬額などの取引条件について発注事業者側に主導権があることが多く、ひどいときには報酬が得られなかったりする例もある。仕事をしたのに、お金が得られなければ、それこそフリーランスには厳しい現実になってしまう。実際、フリーランスの約4割が報酬不払いや支払い遅延などのトラブルを経験し、また同じく約4割が条件の記載が不十分な発注書しか受け取っていないという調査などもある。このままだと、多様な働き方の姿としてあるはずの「フリーランス」という選択を選ぶことに二の足を踏んでしまいそうだ。

 こうした状況を踏まえ、フリーランス新法ではフリーランスと発注事業者の間の取引を適正化して、就業環境の整備を進めている。具体的には発注事業者に対して、「書面などによる取引条件の明示」や「報酬支払期日の設定・期日内の支払い」などが義務付けられる。

フリーランスが仕事と育児・介護を両立できるような配慮も求める

 大きく、発注事業者の事業の状況やフリーランスとの業務委託の関係によって義務になる項目は異なるが、フリーランス新法はフリーランスを守ることを主眼に置いている。この点から取引条件の明示は、すべての発注事業者に義務付けられ、業務委託をした場合に、書面などによって「委託する業務の内容」「報酬の額」「支払期日」といった取引条件を明確に伝えなければならない。フリーランスとしては、あらかじめ条件が分かることで安心して仕事を受けられるし、報酬額について「言った言わない」のトラブルも防ぐことができる。

 発注事業者側が従業員を使用している企業の場合は、報酬支払いの期日設定や期日内の支払い義務も発生する。物品やサービスなどの提供を受けた日から数えて60日以内に報酬支払期日を設定し、期日内に報酬を支払うことが求められる。従業員を使用している発注事業者に対しては、「ハラスメント対策にかかる体制整備」も求められる。セクシュアルハラスメントや、妊娠・出産などに関するハラスメント、パワーハラスメントなどの行為は、立場が強い発注事業者から、立場の弱いフリーランスに向けて行われることがしばしばだ。

 そのため、フリーランス新法では、ハラスメントによる就業環境の悪化や心身の不調、取引の中断や撤退を防止することを目的に、ハラスメント行為に対する相談対応のための体制整備などの措置を求めている。フリーランスが相談窓口などに相談したことによって取引が不利になるような行為も禁止される。業務委託が一定の期間以上続く場合には、さらに義務項目が拡大する。その1つが「育児介護などと業務の両立に対する配慮」。継続的業務委託の場合には、「フリーランスが妊婦健診を受診するための時間を確保できる」ようにしたり「育児や介護などと両立できるような就業日・時間の設定」をしたり、「オンラインで業務ができるようにする」ことが求められる。

 この他にも「発注した物品を受け取らない」「発注時に決めた報酬額を後で減額する」といった禁止行為も定められている。フリーランス新法は2024年秋までに施行される。フリーランスにとって安心して働ける環境が少しでも整備されることで、働き方の幅が広がるだろう。さらに、業務を委託する企業なども法律によって業務の委託の仕方が明確になり、フリーランスの労働環境が整っていくことになりそうだ。

執筆=岩元 直久

【MT】

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