生成AIは急速に進化し、人間と遜色ない意思疎通が実現され始めている今、最新のニュースといえば、米OpenAIが9月12日(現地時間)に発表した新たなAIモデル「o1」だろう。この「o1」は、ユーザーからの入力に対して「反応する前に考えること」により多くの時間を費やすよう設計され、複雑なタスクを推論、以前のモデルよりも科学、コーディング、数学の難しい問題を解決することができるという。「o1」は、競争力のあるプログラミング問題(Codeforces)で89パーセンタイルにランクし、USA Math Olympiad(AIME)の予選では米国の上位500人の学生にランクイン。また、物理学や生物学、化学の問題(GPQA)のベンチマークでは人間の博士号レベルの精度を上回るなどの成果を上げているという。なお、より費用対効果の高い「OpenAI o1-mini」も同時発表されている。
他方、生成AIの活用が急速に拡大する日本においては、国産の生成AIサービスも増えている。例えば、NTTやNECが日本市場向けの大規模言語モデル(LLM)を開発し(NTT「tsuzumi」、NEC「cotomi」)、日本語性能の高い生成AIサービスやソリューションを提供している。さらに、日本発のスタートアップ「Sakana AI」が東京に世界クラスのAI研究所を建設、自然に触発された知性に基づく新しい種類の基盤モデルを作成、3月には大規模言語モデル(LLM)を含む複数の基盤モデルの統合を自動化する方法を開発した。創業からわずか10カ月でユニコーン(企業価値10億ドル超の未上場企業)となり話題となった。生成AIに関しては、日本市場向けモデルの開発はもちろん、日本から世界に打って出ていく未来も描けそうだ。
生成AIを導入済みの自治体は、総務省「自治体における生成AI導入状況」によると、都道府県51.1%、指定都市(政令で指定する人口50万以上の市)40.0%。その他の市区町村で9.4%となった。実証実験中も含めれば、都道府県95.8%、指定都市90%、その他市区町村25.1%と、都道府県と指定都市が9割以上という大きな数字となっている。ただし、その他市区町村では前述の国内企業よりも低く、ムラの大きい状況だ。
自治体が導入している(実証実験も含む)生成AIの具体例としては、多い順から、「あいさつ文の作成」「議事録の要約」「企画書案の作成」「ローコード(マクロ、VBA等)の作成」「メール文案の作成」「翻訳」といった順だ。「あいさつ文の作成」では年間1500時間の削減、「議事録の要約」では半日程度かかっていたものが30分~1時間程度に短縮。そして、ポスター・チラシの画像作成では年間160時間の削減になるなど、一定の効果があがっているものの、導入して間もないため効果を検証できていない自治体もあるという。
生成AI導入の課題については、回答の多い順に「AI生成物の正確性への懸念がある」「導入効果が不明」「取り組むための人材がいない又は不足している」「どのような業務や分野で活用できるかが不明」「要機密情報流出の懸念がある」などであった。なお、自治体が導入している(実証実験含む)生成AIのサービスは、本運用では「ChatGPT(GPT-3.5)」、実証実験では「自治体AI zevo(ゼヴォ)」が最多。「自治体AI zevo」は、ChatGPTやClaude(米国のスタートアップ企業Anthropic社が提供する無料のLLM)など全13種類の大規模言語モデル(LLM)を切り替えて「LGWAN」(総合行政ネットワーク)上で利用可能な自治体業務特化の生成AIサービスだ。
具体的な活用事例について
では、以下において自治体の生成AI活用事例を具体的にいくつか見ていこう。
・広報紙作成のサービスデザイン検討に活用、さらなる業務への汎用をめざす(神戸市)
2023年4月から職員を限定して試行利用を実施。2024年2月から「Microsoft Copilot」の全庁利用を開始した。市長から指示があったため導入検討を進めたという。生成AI活用にあたって、安全性のリスクや市民の不安を考慮、早期に条例改正や利用ガイドラインの策定を行っている。主に広報紙の作成で、生成AIによるペルソナ(広報紙を読む人物像)設定やカスタマージャーニーマップ(ユーザーが商品・サービスとの関わりの中でたどる一連のプロセスを視覚化したもの)を出力し、ユーザー目線の企画立案を実現している。
本格導入に際して、生成AIを利用したことがない職員が大半を占めており、利用に戸惑うことが容易に想像できたため、試行利用結果から事例を提示することで利用をイメージしてもらえるよう、「生成AIによる市役所の業務効率化-プロンプト事例集」をまとめ、提供している。この事例集は生成AI利用のうえでなかなか参考になる。試行利用では、作業時間短縮による業務効率の向上に加え、業務の質が向上したという。本格利用後は、全職員に対する汎用的な効果を検証中だ。今後は普及が進んだ後の定着を見据え、業務効率化に寄与するモデル事例を見いだすことが課題となるという。全職員が生成AIを利用できる状況となったため、まずは試して慣れてもらうことを主に、先行自治体の動きを参考にしながら、多くの職員に活用してもらえるよう仕掛けを行う。
・生成AIとRPAを組み合わせた業務効率化の追求(別府市)
令和5年4月頃から職員有志でChatGPTの勉強会を開催するなど活用に向けた機運が高まり、他自治体でも生成AI活用の取り組みが進んでいたため、別府市から事業者へ打診し実証を開始。令和5年8月から実証運用、11月から本格運用を開始した。入力した情報が生成AIの学習データとならない形態で「自治体AI zevo」を利用している。
文章案の作成支援やアイデア出しなどで幅広く活用するとともに、生成AIとRPAを組み合わせ、市民からの「ご意見メール」を自動的に要約・分類する実証を行い、実際の業務にも活用している。また、産官学連携で別府市固有のデータを使い、正確な情報を回答する生成AI開発の取り組みを進めている。なお、自治体におけるAI・RPAの利用に関しては、総務省「自治体におけるAI・RPA活用促進」が参考になる。
なお、利用上の注意点を下記の必要最小限の3点に絞ることで、利用促進のハードルを下げることに成功している。
①質問に機密情報や個人情報を含めない
②回答内容は事実確認を行うとともに、そのまま利用せず参考資料として扱う
③公用でのWeb版(無償)のChatGPTの利用は禁止
実証実験のアンケート結果では「効率は大幅に上がると思う」「効率は上がると思う」の回答が87%であった。実際の業務活用では、約2600件の市民アンケートの自由記述欄に記入された内容を生成AIで分類する作業において、職員一人で2週間程度かかる作業が生成AIとRPAの活用により2日間程度に短縮できたという。試験的な取り組みとして実施した生成AIとRPAの組み合わせに関して、今後活用範囲の拡大を検討していく方針だ。生成AI活用の課題は「ハルシネーション」と認識、課題解決に向け、別府市固有のデータを用いた正確な情報を回答する生成AIの開発に取り組んでいる。
・小規模自治体における緩やかな生成AI活用促進(岡山県西粟倉村)
2023年よりGPT-4相当の生成AIを無料で利用できるサービスを選んで、日常業務を中心に全庁で利用している。職員の業務内容の特徴をつかんだ上で、業務の効率化が無理なく実現するよう、生成AIで解決したい課題を決め、繁忙期を避けて勉強会を開催するなど緩やかに利用を促進している。有料サービスはできる限り利用しない一方で、職員の基礎的なリテラシーの向上に継続的に取り組んでいる。利用方法や成果物の評価など、実情に合った独自のガイドラインを作成している。
資料や文書の作成支援や要約などに活用している他、JavaScriptやPythonコード作成にも活用している。画像の取得やコード作成作業では、検索エンジンを使用するよりも作業時間を短縮する効果がある他、議事録などの長文の要約が容易にできるなど、複数の作業において職員の作業効率の向上に寄与しているという。
職員人数が比較的少ない小規模自治体では、職員あたりの業務の種類が多く、業務ごとにシステム化して個別に作業時間を圧縮するようなアプローチでは職員単位の作業効率の向上につながりづらい面がある。繁忙期を避けて勉強会を開催する、また「Microsoft Excel」などの操作についてリテラシーを向上する取り組みも併せて行うなど生成AIの利用を強制しないかたちでの緩やかな導入促進を図っている。
今後どうなる? 問題点や課題など
上記の活用例は、総務省「自治体におけるAI活用・導入ガイドブック」の別冊付録「先行団体における生成AI導入事例集」からより詳しく参照できる。企業でも参考になるので、一度は目を通すとよいだろう。なお、「自治体におけるAI活用・導入ガイドブック」は、「導入手順編」と「実証要点まとめ編」があり、これらも参考になる。
生成AIに関しては、総務省・経済産業省「AI 事業者ガイドライン」や、総務省「生成AIはじめの一歩~生成AIの入門的な使い方と注意点~」、消費者庁「AI利活用ハンドブック~生成AI編~」、東京商工会議所「中小企業のための生成AI活用入門ガイド」、「情報通信白書」などで、基礎知識を学んでおこう。
今回は、自治体の活用事例を見てきたが、人手が足りない中でも、住民への安定したサービスを提供しなくてはならない、という自治体における実情がある。さらには総務省「自治体戦略2040構想研究会」の「自治体戦略2040構想研究会 第一次・第二次報告の概要」によれば、「労働力の絶対量が不足する2040年」に備え、「従来の半分の職員でも自治体が本来担うべき機能を発揮できる仕組みが必要」とし、「すべての自治体で、AI・ロボティクスが処理できる事務処理はすべて自動処理するスマート自治体へ転換する必要」がある、と書かれている。
ここまでの事例で見てきたように、生成AIの利活用で効率化できる業務の範囲は広い。ただし導入と同時に、生成AIが抱える回答に間違った情報が含まれている可能性や、セキュリティ面などでのリスク、職員のITリテラシーなどの問題も解決していかなくてはならない点に気を付ける必要がある。
生成AIに対する自治体の課題は、少子高齢化や労働力不足、環境問題などを抱える国民すべての課題でもある。生成AIに関しては、ベンダーに相談する、Web検索などで自社に合うソリューションを見つける、日本語特化LLMの開発元に問い合わせる、などで導入を検討するとよい。今回の例も参考に、今後の未来を考えていこう
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