脱IT初心者「社長の疑問・用語解説」(第82回)
ブルーライト対策にはうな重?
公開日:2023.09.08
新型コロナウイルス感染症が5類感染症に移行され、以前のようにオフィスに人が戻りつつある。しかし、もともとテレワークは感染症対策のために推奨されていたわけではない。その狙いはいつでもどこでも働ける環境を提供して、労働力を確保しながら生産性を高めることにある。その第一歩とされるのが紙文書のデータ化である。そこで紙文書をデータ化するメリットを改めて考えるとともに、具体的な方法についても紹介する。
2020年の春に緊急事態宣言が発出された影響で、テレワークは急速に普及した。外出自粛への協力が求められる中で事業継続に大きな効果を発揮した一方、さまざまな課題も浮かび上がった。その1つがオフィス文書の活用である。
紙で保管されているオフィス文書を見るためには、オフィスに行って閲覧したりオフィスから持ち出したりする必要がある。しかし、オフィスから持ち出すことには、大きく2つのリスクがある。1つは紛失や盗難などの恐れだ。業務が遂行できなくなるだけでなく、情報漏えいにつながることも考えられる。もう1つはその文書を必要とする他の人が利用できなくなることだ。いざという時に必要な文書が入手できなければ、生産性は大きく低下する。
こうしたリスクを避けながら生産性を向上させるには、オフィス文書をデータ化して共有できる環境を構築するしかない。そのためには紙文書をデータ化して安心して保管・共有できる仕組みが必要になる。
紙の文書をデータ化するときは、スキャナーを利用するのが一般的である。しかし、これまでは紙文書をPDFファイルなどに変換してメールに添付したり、サーバーなどに保管するためにスキャンしたりするのが大半だった。
紙文書に書かれた文字をデータにするには手入力のほかにOCRでテキスト化する方法があるが、従来はOCRの読み取り精度が低く、特に手書き文字に関しては誤って読み取られることが多かった。また、請求書や発注書のように各社によってフォーマットが異なる帳票の場合、帳票ごとにOCRの設定を変える必要があり、かえって手間がかかることからあまり活用されてこなかった。
近年、AI技術の採用で飛躍的に読み取り精度が向上した「AI OCR」が登場したことで、OCRは再び注目を集めている。OCRでテキストデータに変換しておけば検索性が上がり、情報の活用度も高まる。契約書、申請書などをデータ化しておけば修正も容易になる。
1回のスキャンでは認識しきれない大量の紙文書であっても、専門業者に委託すれば短時間でデータ化することができる。大量のデータを社内システムに移管したり、メディアに記録する際にはこうしたサービスを利用するのがいいだろう。
データ化されたオフィス文書を有効活用するためには、データを共有できる仕組みが欠かせない。オフィスであればLANにつながったファイルサーバーに格納すれば共有できたが、社外から利用するにはVPNでアクセスするなどの手間がかかり、セキュリティ面でも不安がある。
そこでおすすめしたいのがクラウドサービスを利用したファイル共有である。クラウド化されたファイルサーバーの場合、データはオンライン上のファイルストレージに保存される。したがってインターネットに接続できる環境であれば、場所や端末を問わずにアクセスできる。クラウド上であれば複数端末から同時にアクセス可能な上、更新履歴はリアルタイムに反映されるため、1つのファイルを共同で編集するときに便利である。
セキュリティ面においてもクラウドストレージを利用するメリットは大きい。クラウドストレージには外部からの不正アクセスを監視したり、不正アクセスを防御する仕組みが備わっている。通信経路は暗号化され、データの改ざんや盗用がされにくいようになっている。
これらのデータを保管するデータセンターは、IDカードや生体認証など万全の体制が敷かれている。建物自体も自然災害のリスクが低い地域にあり、万が一の事態に備えてデータは複数拠点に分散されていることがほとんどだ。サーバーやネットワーク機器は、データセンター内部の堅固なラックで厳重に保管されている。温度・湿度は適切に管理され、停電時の予備電源も用意されている。中小企業がこうした環境でネットワーク環境を構築するのは至難の業だ。こうした理由から、サーバーの自社運用にこだわるよりも、専門業者が提供するクラウドサービスを利用する方が安心できる。
紙の文書をデータ化して、クラウドストレージで共有できる仕組みを構築することの一番のメリットは、前述したようにどこでも働ける環境を提供することだ。オフィスという場所にこだわらずに仕事ができる新しい働き方を実現する。
企業にとってオフィス文書は知の資産である。それをAI OCRやクラウドサーバーを利用して適切に共有できれば従業員の業務の生産性を高め、創造性の発揮にもつながる。ペーパーレス化が進めば紙文書を保管する場所が不要になり、オフィススペースを有効活用できるようになる。クラウドサーバーで保管することで、自社では実現し得ない高いセキュリティレベルで情報を管理できることもメリットである。
ただし、データ保管の安全性が担保されていても、通信環境の安全性に問題があっては元も子もない。クラウドストレージ、Web会議システム、チャットアプリなどさまざまなオンラインサービスが利用されるようになった今、テレワーク環境においても強固なセキュリティ対策を講じる必要がある。
文書のデジタル化とクラウドストレージによる共有で、企業は大きな恩恵を享受できるだろう。DXをさらに加速させるためにもぜひ実現しておきたい環境である。
※掲載している情報は、記事執筆時点のものです
執筆=高橋 秀典
【MT】
審査 24-S706
働き方再考