事業を行っているオーナー社長や個人事業主にとって、現在の事業業績の把握は当然ながら重要です。中でも適切に納税するためには、利益を常に正確に把握しておく必要があります。決算書に表記する利益には、「営業利益」「経常利益」「税引き前当期利益」などいくつかあります。今回は、営業利益の算出方法とその注意点について復習します。
適切な納税の第一歩は「営業利益」の正確な把握
営業利益とは、会社や個人事業主が本業で得た利益をさします。例えば小売業であれば、取り扱う商品を売って得た利益が営業利益に該当します(保有株式などからの配当金や預金利息などの利益は含まない)。つまり、現在の会社の持っている本来の収益力を見ることができます。
これに保有株式からの配当金、預金利息、資産の売却益(損)などを加減して、「経常利益」や「税引き前当期利益」を算出します。さらに税務上の取り決めを反映して「課税所得」を計算し、法人税額が決まります。ですから、営業利益の正確な把握は適切な納税の第一歩といえるのです。
営業利益は、「営業利益=売上高-売上原価-販売管理費」で算出できます。損益計算書(P/L)に記載される営業利益も、この計算式に沿って算出された金額が記載されます。営業利益を見ると、自社または自己が本業でどのくらい利益を得ているのかが分かります。営業利益を上げるには、①売上高を上げる、②売上原価を下げる、③販売管理費を下げる、のいずれか、あるいは複数の方法を採らなければなりません。
次に、営業利益を計算する上で必要となる「売上原価」と「販売管理費」とはどのようなものかについて解説します。
・売上原価に含まれるもの
「売上原価」とは、販売された商品や製品・サービスを生み出すためにかかった費用です。小売業における仕入高や、製造業における原材料費などが該当します。ただし「売上原価」は、あくまでも売れた分に対してかかった費用ですから、その会計期間中に仕入れや製造を行ったすべての金額が原価に含まれるわけではありません。
・販売管理費には「販売費」「一般管理費」が含まれる
「販売管理費」は、販売費と一般管理費を合計した金額となります。販売費とは、商品や製品・サービスの販売にかかる費用で、利益を得るために必要な費用をさします。具体的には、営業や販売部門の従業員の人件費や広告宣伝費、旅費交通費、接待交際費などが該当します。「一般管理費」とは、従業員管理や在庫管理などの管理にかかる費用で、会社などを運営するために必要な費用です。具体的には、人事や経理、総務などの管理部門の従業員の人件費や社会保険料、福利厚生費、水道光熱費などが該当します。
売上原価の計算方法…
売上原価の算出は、「売上原価=期首商品棚卸高+当期商品仕入高-期末商品棚卸高」で計算します。期首商品棚卸高は会計年度開始日の在庫の総額であり、この在庫の額に当期中に仕入れた商品などの仕入代金の総額を加算し、当期末の在庫である期末商品棚卸高の額を差し引いて算出します。また、計算式から分かるように、売上原価は期末の在庫高を差し引いて確定するというのが特徴です(期末棚卸高の計算方法などは次回詳細を解説)。
以上の通り、売上原価の計算方法について解説しましたが、企業や事業者が正確な売上原価を把握しなければならない重要性は以下の通りです。
【原価の価格変動への対応】
原価が高騰など変動した場合に、売上原価を正確に管理できていれば、事前に損失額を予測して別の取引先からの仕入れを検討するなど早期対応が可能となります。
【利益率・競争力の向上】
正確な売上原価を把握できれば、コストカットを図り適切な価格の設定ができるようになり、利益率の向上が期待されます。さらに、利益率向上により設備に投資する余裕が生まれ、競争力も高くなります。
【製品などの品質向上】
売上原価を管理する中で無駄な費用を省くと、原材料などの品質を高められます。
【利益、投資家の信頼度の向上】
商品の品質向上により顧客の満足度が高まり、利益も向上します。会社の業績も上昇して、投資家などから信頼される可能性が高くなります。
このように「営業利益」を上げるためには、売上原価の正しい把握と販売管理費の構成内容などを詳しく分析することが重要です。税務調査においても、税務署は確定申告された決算内容などを分析しますが、本業の利益である「営業利益」については前期から増加しているのか、減少したのかを必ず確認します。そして、増加や減少の要因となっている科目を分析し、場合によっては調査をします。経営者として、営業利益の成り立ちと売上原価の計算方法などを十分理解するとともに把握しておきましょう。
執筆=笹崎浩孝
税理士・一般社団法人租税調査研究会主任研究員
国税局課税一部資料調査課主査、国税局個人課税課課長補佐、国税局査察部統括査察官、国税局調査部統括国税調査官をはじめ、複数の税務署長を経て2021年7月退職。同年8月税理士登録。
編集協力=宮口貴志
一般社団法人租税調査研究会専務理事・事務局長。
税務・会計・税理士をテーマに雑誌の作成やニュースサイトなど運営を手がける株式会社ZEIKENメディアプラス代表取締役。元税金の専門紙および税理士業界紙の編集長、税理士・公認会計士などの人材紹介会社を経て、TAXジャーナリスト、会計事務所業界ウオッチャーとしても活動。
一般社団法人租税調査研究会(ホームページ https://zeimusoudan.biz/)
専門性の高い税務知識と経験をかねそなえた国税出身の税理士が研究員・主任研究員となり、会員の会計事務所向けに税務判断および適切納税を実現するアドバイス、サポートを手がける。決して反国税という立ち位置ではなく、適正納税を実現していくために活動を展開。