ロングセラー商品に学ぶ、ビジネスの勘所(第46回)“失敗”が世界的ヒット商品の開発を招いた「ポスト・イット」

スキルアップ 雑学

公開日:2022.09.30

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 書類に付ける目印として、備忘のためのメモとして、また本のしおり代わりとして、オフィスでもプライベートでも大活躍するのがポスト・イットです。ポスト・イットは米3Mの商品名ですが、付箋の代名詞となるほど身近な存在となっています。ポスト・イットはアメリカで1980年、日本で1981年に発売が開始された、文具の世界的ロングセラーです。

 ポスト・イットのストーリーは、ある「失敗」から始まります。1968年、3Mの科学者であるスペンサー・シルバーは、接着剤の研究を進めていました。そのときにできたのが、よく付くけれど、簡単にはがすことができる接着剤でした。

 シルバーが作った接着剤は、粘着剤が小さな球状になっていました。球状で接着面が小さいため、付けるときは強く押さえつけないとくっ付きません。強く押さえると、粘着剤が平たくつぶれてくっ付きます。粘着剤には弾性があり、引っ張ると元の球状に戻って粘性が落ち、簡単にはがすことができます。そして、はがした後も粘着剤の弾性は保たれるため何度でも付けたりはがしたりすることができるという、それまでの接着剤にはない特性を持ったものでした。

 接着剤というのは本来、強力にくっ付き、はがれにくいのが良しとされるものです。シルバーの接着剤は非常にユニークなものでしたが、そのユニークさゆえに使い道がわかりませんでした。社内のさまざまな部門に作った接着剤を紹介しましたが、どのような用途で商品化すればいいかがわからず、お蔵入り状態になっていました。

 時が過ぎて、1974年のある日曜日。3Mの研究者アート・フライは教会にいました。フライは聖歌隊のメンバーで、聖歌集の歌う予定になっている歌のページにしおりを挟んでいます。しかし、このしおりがよく落ちてしまうため、拾わなければならないのが面倒でした。この日も、聖歌集の間からしおりが落ちました。そこでフライは、ふとひらめきます。しおりの端にのりをつければいいのではないか――。

 しかし、普通ののりだとくっ付いたままになり、しおりを違う歌のページに挟むために外すことができません。無理やりはがすと、ページが破れてしまいます。欲しいのは、ページを破ることなくくっつけたりはがしたりできるのりです。

シルバーの“失敗”とフライのアイデアが結びつく…

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執筆=山本 貴也

出版社勤務を経て、フリーランスの編集者・ライターとして活動。投資、ビジネス分野を中心に書籍・雑誌・WEBの編集・執筆を手掛け、「日経マネー」「ロイター.co.jp」などのコンテンツ制作に携わる。書籍はビジネス関連を中心に50冊以上を編集、執筆。

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