「新しくオープンするカフェで売れ続けるメニューを作りたい」「オープン当初のメニューでは売上がのびない」など飲食店のメニューは店の売上を左右する重要な要因のひとつです。そこで今回は、飲食店コンサルティング会社で働く齊藤康平さんにお話を伺いました。個人店を経営し、メニューで悩んでいる方に向けて、基本的なメニューの作り方から成果を出すためにできること、売上が変わるメニュー表の作り方まで教えていただきます。
メニューの作り方における具体的な流れについてお伺いします。
メニュー作りは、企画と開発の2ステップに分けて考えるようにしてください。段階を踏まずに作ってしまうと、ターゲットのニーズやお店のコンセプトから外れてしまうことがあります。どれだけ料理の腕前が良くても、的外れなメニューはターゲットに響かず、リピート客はつきません。
第一に、企画です。企画は自分たちが作りたいものを噛み砕いていく作業です。まずは、作りたいメニューとお店のコンセプトにズレがないか、考えたメニューがターゲットのニーズに合っているかを考えます。たとえば「オフィス街で・健康を気にするサラリーマンに・食べ応えはあるけどヘルシーなメニューを提供」が、お店のコンセプトだとしましょう。しかしコンセプトに沿わず、自分の出したいメニューや流行っているメニューを作ってしまうと、その後の開発やメニュー表の作成に大きく影響します。加えて、自分たちの強みと社会的ニーズにどんな接点があるかを考えることができればなおよいでしょう。
第二に、メニュー開発です。企画に沿ったメニューが実現できるかを考える作業です。「原価はどれくらいか?」「継続的に仕入れができるものか?」「食材ロスは出ないか?」など必要・不要を考え、実際にレシピを作っていきます。具体的に形にしていくことで、企画段階では見えなかったことも見えるようになります。
たとえば、揚げないヘルシーなトンカツ定食を作るとしましょう。企画の段階では、少量の油を使いフライパンで焼くというレシピでしたが、実際に作ってみると「思ったよりヘルシー感が伝わらない」となる事例です。そこで、油は一切使わずにオーブンレンジで焼き上げるというレシピに変えて、よりヘルシー感を出すことにしました。このように、実際に作ってみて試行錯誤し、コンセプトから外れないよう他店との差別化をはかってください。
メニューの原価・原価率はどのような基準で決めればよいでしょうか?
少し前まで一般的な原価率は30%前後でしたが、コロナの影響もありFLRのバランスに変化が出てきています。FLRとは「food:材料費」「labor:人件費」「rent:家賃」であり、飲食店経営にかかる3大コストです。以前は、売上に対してそれぞれfoodとlaborが30%、rentが10%という値が理想とされていました。
しかし、いまではビジネスモデルによってFLRの割合を変える店が増えています。たとえば、競合店と差別化するために原価を上げる、IT技術を導入し接客スタッフの業務負担を減らすことで人件費を下げるなど店の目標ごとにFLRのバランスを変えます。このように、何にコストをかけ、そのためには何が必要かをよく考えて決めなければなりません。
メニュー数はどのように決めればよいでしょうか?
なるべくメニュー数を絞って、代わりに週替わりやおすすめメニューを定期的に入れ替えるとよいでしょう。一般的に、客幅が広い大箱チェーン店は、さまざまなターゲットに合うようにメニューをたくさん準備します。
しかし、個人店でそんな当たり前の店を作っても反応されません。また、昔は「席数=メニュー数」でしたが、いまは違うと考えている飲食店が増えています。最近の傾向として、店の規模を小さくして専門店化する店が多いですね。そのため、メニュー数も30〜50が一般的です。
定番メニューや看板メニューはどのように決めればよいでしょうか?
どちらのメニューにも共通することは、店のコンセプトに合わせることです。これを前提としたうえで、看板メニューは「店の思い」に合わせ、定番メニューは「お客さまの思い」に合わせて作ることを意識してください。
まずは、看板メニューです。「わたしたちの店は◯◯を大事にしているお店です!」のように、自分の店を語れるくらいの商品を作ります。たとえば、出汁にこだわった鍋屋では、お客さまから見える場所でかつお節を削り、削りたてのかつお節を鍋に入れるというパフォーマンスをしています。これは、出汁へのこだわりをお客さまに感じてもらうための演出です。このように、多少オペレーションに負担がかかったとしても、ターゲットに「これが看板メニューだ」と意識づけることが大切です。
つぎに、定番メニューです。看板メニューを軸に「ほかにどんなものを食べたいか?飲みたいか?」を考えて作ります。たとえば、看板メニューがステーキなどガッツリ系のメニューだったとしましょう。他のメニューは「あっさり系でスープやサラダがいいのか?」や「一人で来るのか?カップルで来るのか?大人数で来るのか?」などを想定しながら、メインターゲットに合わせて定番メニューを決めていきます。
限定メニューや期間限定メニューについてもお伺いします。
限定メニューは1ヵ月程度で変える個人店が多数ですね。もちろん、数量限定・地域限定・期間限定にもよりますが、基本的には「限定品」です。リピーターを飽きさせないためにも長くても3ヵ月に一度は変えた方がよいでしょう。
また客数にもよりますが、チェーン店より個人店の方がメニュー変更に自由がきくので、短いスパンでメニューチェンジができます。また、限定品のみならずメニューを話題性のあるものにするとよりお店の宣伝にもなりますね。
話題性を呼ぶメニューに必要なものとは何でしょうか?…
話題性を作るためには、SNSを含む「メディア」で取り上げられることが近道です。そのことから多くの飲食店が、経済に絡めた新しい取り組みや、写真映えするような盛り付けの研究など、日々トレンドをチェックしています。話題といっても一過性のものから、長い目で見て利益につながるものがあるため、お客さまの窓口を広げたいのか、しっかりリピーターをつけたいのかで使い分けるとよいでしょう。
具体的には、その時の経済と店のコンセプトがどうリンクするかは非常に重要ですね。長い目で見て利益を出したいのであれば、時代の需要にマッチすることがポイントです。たとえば、コロナ禍なのに人気の店があるとしましょう。
その店は、コロナの影響で余った高級食材を豪快に乗せた海鮮丼を販売することになりました。この海鮮丼は原価100%を超えますが「コロナで仕事が減る業者を守りたい!」という気持ちから生まれたメニューです。「フードロスを避けるため、高級食材がおしみなく使われた海鮮丼を販売!」というように話題性を呼ぶことができるでしょう。このように、自分たちのコンセプトが経済状況とリンクすれば、メディアにも取り上げられやすくなるのです。
また、映えるメニューはSNSによって異なります。一過性の話題であれば、SNS映えを狙ってみることもひとつです。しかし同じ動画をあげたとしても、TikTokでは流行るけどInstagramでは流行らないという場合もあります。
たとえば、40〜50代男性がターゲットのチェーン居酒屋で「サーモン食べ放題980円」をはじめたところ、本来のターゲットである男性には響きませんでした。しかし、TikTokを通して女子高生に受けたという事例があります。このように、SNSで話題を呼ぶ場合は、実践してみなければわからないのです。
また、SNSによる話題性は流行り廃りが激しいので、SNSだけでのリピーター獲得は難しいと思っておいた方がよいでしょう。流行ったあと5〜10年後のビジョンが明確にある場合に限り、有利な方法です。
人気が出る商品にはどのような点が共通しますか?
人気が出る商品の共通点は「おいしかった!」と感じたときに誰かに言いたくなる商品ですね。その際、一言でどのように伝えるかパッと思いつくものだとなおよいでしょう。パンケーキで例えるなら「ふわふわで初めての食感だった!」など、シンプルな説明なのに、店の狙い通りの感想を言ってもらえるメニュー作りをしてみてください。
また、飲食店は8〜9割がアルバイトで構成されています。そのため、アルバイトでも説明が簡単でおすすめしやすい商品だと人気が出やすい傾向にあります。
一方、人気が出ない商品にも共通点はあります。メニューについて説明が難しいものは、味が良くても人気が出にくい傾向にあります。基本的に料理人はプロで、お客さまは素人です。そのため料理の過程や温度がどうとか、細かい話をしても伝わりません。たとえ「おいしい!」と感じて誰かに伝えたくなっても、具体的に伝えることができません。
メニュー表の作り方についてお伺いします。
メニューができたら、メニュー表もしっかり練りましょう。また、メニュー表にはわかりやすいレイアウトの特徴があります。
一般的に、縦書きのメニューには「Nの法則」を、横書きのメニューには「Zの法則」を使います。人は何かを読むとき、縦書きなら「N:右上→右下→左上→左下」という順番で、横書きなら「Z:左上→右上→左下→右下」という順番で見る習慣があるのです。この習慣法則に沿ってメニュー表を作成しましょう。
また、最近流行っているデザインとして、シンプルなものもおすすめです。文字量が多くカラフルなメニュー表は、単純に読みづらいだけでなく、チープな印象も与えます。そのため、シンプルなメニューにする店が増えてきているのです。
メニューには写真があった方が売れやすいでしょうか?
業態やターゲットの年代によって変わります。高級店であれば写真は不要で、ファストフード店であれば写真はあった方がよいでしょう。たとえば、一人2万円のコースの割烹店で料理写真がずらりと並べられていたら、あまり高級感は感じませんよね?
手書き風の文字だけの方が高級感もあり「どんな料理で、どんな器を使っていて、どんな盛り付けなんだろう?」と想像をかき立てる楽しみもあります。また、お客さまの年代によっても写真の有無は変えた方がよいでしょう。年代が上がれば経験値も上がるため、メニュー表記だけでどんな料理が出てくるのか想像できるからです。
また、客単価によってメニューの情報量を変えることも重要です。客単価が高ければ情報量を減らし、安ければ情報量を増やします。たとえば高級店の場合、腕のいい料理人を雇えば普通の食材でもおいしく作れます。そのため原価をかけずに客単価を上げることが可能になります。そうすると、人件費にお金をかけて接客スタッフの教育もできます。つまり、しっかりと料理の説明をできるスタッフが集まれば、メニュー表の情報も少なくて済むというわけです。
逆に、単価の低いファストフードなどの飲食店は利益が小さいため、回転数を増やして利益を上げなければなりません。素早くメニューを決めてもらうためにも、メニュー表の情報量は多くした方がよいのです。ほとんどのファストフード店では、メニューそれぞれに写真と商品説明を記載しています。
食材の産地やこだわりポイントの一言は添えた方がよいでしょうか?
全体の情報量にもよりますが、基本的には本当におすすめしたいメニューにだけ一言を添えます。情報量が多すぎると人はメニューをすべて読みません。そのため、伝えたいものは絞って書くことがおすすめですね。
また、伝えたい一言がどのスタッフでも説明できるレベルであれば、あえて書かずに接客中に伝える方がよいでしょう。そうすることでお客さまとのコミュニケーションもはかることができますよ。
お客さまの注意を引く言葉でおすすめのフレーズはありますか?
注意を引く言葉の選び方では取捨選択が大事です。あれもこれも伝えたいという思いからどうしても詰め込みすぎてしまいがちになります。伝えたいことを書き出し、どう削っていくかを前提とし、おすすめのワードをご紹介しますね。
第一に「わかりやすい言葉」を使うことです。「限定・名物・店主おすすめ・本日のおすすめ」や、地域の名物があれば「飛騨高山名物」などもよいでしょう。これらは、ほとんどの飲食店で使われています。ただし、使いすぎると、おすすめが多すぎてお客さまは選べなくなるためバランスを見ながら使いましょう。
第二に「攻めた言葉」もときには使えます。「やみつき危険!」など攻めたネーミングもあります。ただし、使いすぎはしつこくなるので注意が必要です。また、こういった言葉は、スタッフの接客レベルが高いことが前提にあります。たとえば、お客さまに「やみつき危険ってなんですか?」と質問されたときに「食べてみたらわかります!私なんて3回食べたら中毒になりました!笑」のように、うまく返事ができるかどうかですね。攻めた言葉を使うと、会話の流れでおすすめメニューを伝えることが簡単にできます。上級者テクニックとして、高い接客とともに使いましょう。
第三に「ギャップ」をうまく使うこともコツです。店や店主の雰囲気と、メニューにギャップを持たせる方法です。たとえば、「和食屋の赤ワイン煮込み」や「大将のカルボナーラ」などが書いてあると気になりませんか?これは「想定外の組み合わせに興味がいく」という人の心理に働きかけます。しかし、ギャップも使いすぎは厳禁です。くどくなるうえに情報量が多すぎて目を通してもらえなくなります。ギャップを使う言葉も、変化球として使うとよいでしょう。
もっとも売りたいメニューを表示するテクニックはありますか?
シンプルな方法だと、別紙に書く、レイアウトの法則で書く方法などがあります。また、フォントの大きさや色をつけてもよいでしょう。変わった方法としては、売りたいメニューに「言葉」ではなく「マーク」をつけるテクニックがあります。
たとえば「◉ペペロンチーノ」というように、メニューの前にお店のマークなどをつけると「おすすめかな?限定メニューかな?」など推測して、つい店員に聞いてしまいませんか?このように、目に入る情報には言葉以外で表現するテクニックも有効なのです。
また、マークを使うことで文字の情報も減らせるため、メニュー表が見やすくなるメリットもあります。
最後に、これからメニューの刷新を考えている飲食店に向けてメッセージをお願いします。
メニューが同じで、メニュー表記を変えただけで売上が変わることはありません。基本的にメニュー表記を変更するときは、メニュー自体に問題がある場合です。ただし、売れ筋ではない商品や、絶対に売りたい商品の配置を換えて売上が変わることはよくあります。レイアウトの法則でお伝えしたように、売りたいメニューは一番目立つところに表示するべきでしょう。メニュー表作りにおいては「見やすいもの」を前提とし、業態やターゲットに合わせて「情報の取捨選択」をしてください。
メニューは「自分が作りたいもの」だけでなく「ターゲットのニーズ・世の中の状況」なども絡ませながら考えることもポイントです。5年10年後のビジョンも明確に考えておくとさらによいでしょう。コロナの影響もあり、飲食店が溢れかえっているいま、本記事でお伝えしたテクニックを取り入れて「潰れない飲食店」を作っていきましょう!
専門家プロフィール
齊藤 康平(飲食店コンサルティング会社)
大手ビールメーカーで外食専門マーケティングを担当。その後、外食ベンチャー企業にて新業態開発で企画から立ち上げまでを担当。さらに中小外食企業の運営責任者を経て、現在に至る。
※「TikTok」はByteDance Ltd.の商標または登録商標です
※「Instagram」はMeta Platforms, Inc.の商標または登録商標です
※この記事は2021年9月時点の情報です